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2007年1月18日 (木)

トリックの鬼

日本を代表する推理作家、横溝正史(1902~1981)は、
第二次大戦の戦火を避けるため住まいのある東京を離れ、
義理の姉を頼って、岡山県吉備郡岡田村字桜(現倉敷市真備町岡田字桜)に疎開していました。
当時の疎開先の住宅がいまも残っており、横溝正史生誕100周年を期に、記念館として公開されています。

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【横溝正史疎開宅:玄関】

昭和20年(1945)4月から約3年半、横溝正史は、岡山県西部のこの農村で慣れない農作業を手伝いながら、
読書と執筆の日々を送りました。
彼の作品は、大きく初期・中期・後期の3期に分けられます。
初期は雑誌の編集者だった時代、中期は信州上諏訪で療養生活をしていた頃、
そして後期は戦後になって発表されたものです。
初期の作品は、最後にどんでん返しが待っている意外性を狙った短編が多く、
作中に特定の探偵は登場しません。
中期になると、私立探偵の由利麟太郎と新日報社記者の三ツ木俊介の名コンビが登場。
子供向けのジュビナイルでは、新日報社に入社したばかりの給仕、御子柴進少年も加わります。
戦後になり、軍部の圧力で出版が禁じられていた探偵小説が解禁になるやいなや、
本格的な長編推理小説を書き始め、探偵役に新しく金田一耕助を登場させます。
戦時中、疎開先の岡田村で、当時は読むことさえ禁じられていた海外の探偵小説の原典を研究し、
いつか日本でも本格的な探偵小説を発表したいと構想を練り、温め続けていたのです。

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【横溝正史疎開宅:執筆の間】

そして、終戦直後の昭和21年(1946)、記念すべき金田一シリーズ第一作『本陣殺人事件』の連載を開始し、
日本の本格長編推理小説に大きな活力を与えました。
これに続く『獄門島』『八つ墓村』のいわゆる「岡山もの」で、
主人公・金田一耕助は、江戸川乱歩の明智小五郎と並ぶ探偵界の大スターとなりました。
横溝正史は神戸生まれの東京育ちで、根っからの都会っ子。
岡田村では、地元の人々と交流のなかで、農村の因習、古くから守られている伝統や風習などを見聞きし、
今なお、こんなに封建的な風土が残る地域があるのかと驚きます。
そしてこの体験から、農村に色濃く残る血縁、地縁的な風習などを題材にして「岡山もの」を執筆しました。
言うなれば、金田一耕助はこの真備町岡田村で生まれたことになります。

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【横溝正史疎開宅:金田一耕助影絵】

横溝正史が後に、岡田村での疎開生活の様子を綴った『桜日記』では、
「食糧難時の時代に親切にされ、多くの話しを仕入れることが出来た。
ここへの疎開がなければ金田一は生まれなかった」と記しています。

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【川辺宿本陣跡】

『本陣殺人事件』は、先にも書いたように金田一シリーズの第一作で、彼の代表作でもある傑作です。
私が、この作品を初めて読んだのは中学一年生の時。
昭和51年(1976)映画化の『犬神家の一族』を皮切りに、
角川書店とのタイアップ映画が連続して大ヒットし、横溝正史の大ブームが到来していました。
この作品の「本陣」のモデルとなったのは、疎開先の岡田村から程近い、
西国街道(旧山陽道)の川辺宿にあった難波家。
本陣とは、参勤交代の大名や幕府の使節が宿泊しいた指定宿のことで、
かつては「本陣職」を勤めた、由緒ある旧家で惨劇が起こるという舞台設定です。
新婚初夜の夜、密室の中で新婦が何者かによって殺されているのが発見される・・・
どのようにして密室を構築したのか、またその動機は?
密室トリックと殺人の動機解き明かしながら、真犯人を追い詰めてゆくストーリー構成ですが、
トリックもさることながら、そのなんとも言えないおどろおどろしい描写に嵌ってしまい、
横溝ワールドの虜になってしまいした。
以来、文庫化されている金田一シリーズは全作読むこととなりました。
横溝作品には、金田一シリーズの他にも、先述の由利麟太郎シリーズや、
捕物帳では人形佐七シリーズなどがありますが、
私にとっては金田一耕助こそが横溝正史でした。

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【西国街道(旧山陽道)】

今回、横溝正史疎開宅を訪れた1月15日は、月曜日で休館日。
あきらめて車をUターンさせていた時、館の世話係をしておられる地元の有志の方々が通りかかられ、
休館日にもかかわらず開錠して見学せてくださいました。
私の車のナンバーを見て、「遠方の大阪からやってきて休館では気の毒」と思って頂いた様で、
結局、最後まで「現在は岡山市内在住です」とは言えませんでした。
ゴメンナサイ。
おまけに、熱いコーヒーまでご馳走になりながら、
SMAPの稲垣吾郎さんが、金田一耕助に扮したドラマ『八つ墓村』(フジTV)の撮影で、
稲垣さん本人とロケ隊がやって来たときの様子など、面白いお話を聞かせていただきました。
横溝正史自身が疎開時代の思い出として語っているように、この地の人たちは非常に親切でした。
おかげ様で、中学生時代に横溝ワールドに浸っていた自分を思い出しながら、楽しい時間を過ごすことが出来ました。

※横溝正史疎開宅
入館料      一般\100
開館日      毎週 火・水・土・日
開館時間   10:00~16:00

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