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2007年1月21日 (日)

人と土と炎の邂逅

岡山県備前市の伊部(いんべ)付近は、備前焼の里として広く知られています。
JR赤穂線伊部駅を出ると、あちこちに窯の煙突が見え、すぐに陶器の街を感じることができます。

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【JR伊部駅前】

備前焼の歴史は古く、信楽・丹波・越前・瀬戸・常滑と並んで日本六古窯の一つに数えられており、
備前国邑久郡(現在の岡山県瀬戸内市)一帯で、古墳時代より須恵器の生産を営んでいた陶工達が、
平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて、伊部の北方にあたる熊山のふもとに集住し、
より実用的で耐久性を持つ日用雑器の生産を始めたのが起源だと言われています。

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【伊部の町並み1】

平安時代以前については、備前焼は伊部焼と呼ばれと呼ばれていた事から、
中臣氏とならぶ大和朝廷中央の祭祀氏族である忌部(いんべ)氏系の地方豪族で、
阿波国麻殖郡忌部郷(現在の徳島県吉野川市)を故地とする、
阿波忌部氏がその成立に深く関与しているのではという説があります。
伊部の地名も忌部が転じたものだと推測でき、現在も陶工の神として忌部神社が祭られいることなど、
忌部氏関与は間違いないように思いますが、阿波忌部氏の分布地として、この地は一切の文献に出てきていません。
古代史ファンとしては、その辺りについても非常に興味深いところではあります。

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【摂社に忌部神社が祀られる天津神社】

須恵器に直接の系譜をもつことから、初期の備前焼は須恵器と区別が困難であり、
古代の須恵器生産と同様に、椀、小皿、鉢、甕、壺など小型・中型の日常生活用の器種を生産していました。
鎌倉時代から室町時代にかけては、山土を使用した壷・擂鉢等が多く作られるようになり、
またこの頃から、備前焼特有の赤褐色の焼肌が出るようになります。

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【備前焼の瓦】

室町時代後期になると、山土に変わって田土が使用されるようになり、
ロクロの使用を契機に量産が図られ、半地上式の穴窯が作られました。
その後、各地の窯は統合され、南・北・西に大規模な共同窯(大釜)が築かれ、
窯元六姓(村・森・頓宮・寺見・大饗・金重)による独占的生産体制が出来上がりました。
一方器種においても、日常雑器の他に、茶道の流行による茶道器が作られるようになって行きます。

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【史跡:南大窯跡】

江戸時代の中期になると、備前焼は藩の保護もあって全国に普及し、
共同の大窯による生産も江戸時代末期まで続きました。
しかし、江戸末期には唐津や瀬戸において陶磁器の生産が活発になり、
次第に備前焼は圧迫され、明治から昭和初期に至る時期は備前焼昏迷の時代でありました。

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【桃跳堂煙突】

このころになると、生産の中心は共同窯から個人窯に移り、
備前焼だけでは生計が成り立たないため、
かつて「備前すり鉢落としても割れぬ」と言われた耐久性の特徴を生かし、
土管や耐火煉瓦の生産が行われるようになりました。

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【伊部の町並み2】

この衰退した備前焼を現在の繁栄に導くきっかけを作ったのが、
昭和の初期に「備前焼の中興の祖」と言われた金重陶陽や藤原啓、山本陶秀、藤原雄といった、
のちに人間国宝の指定をうけた作家達です。

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【備前焼工房:窯口と作業場】

JR伊部駅のすぐ前には陶芸美術館があり、古美術の名品から現代作家の代表作品まで多数展示されています。
正直、陶芸作品については何の造詣も無い私としては、名だたる作家諸氏の作品を見比べても、
鑑賞の視点が皆目解からないというのが本音です。
しかしながら、独特の土味で落ち着いた風格のある作品群を見ていると、
備前焼の魅力の一端には触れる事が出来たような気がします。

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【備前焼の人形】

備前焼は釉薬を一切かけず、絵付けもせず、ただ陶土そのままを形を作り、窯に入れて焼いただけの素朴な焼物。
土の味が直接現れるのが大きな魅力になっており、粗目の肌は温かく深みがあり、おおらかな感じがしました。

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【備前焼工房:薪と煙突】

しかし、それは単に偶然に出来上がったものではありません。
一塊の土から幾多の手順を経て、丹念に形作られた陶土が、
約1300℃の炎で2週間も焚き続けられる過程の中で、自然に変化を遂げた姿であります。
言うなれば、備前焼は自然と陶工の技が織り成す芸術品、火の神と人間の共同作業の産物です。
千年以上窯の煙が絶えることなく、多くの名品を生み続けてきた備前伊部の地は、
今もなお休日となると、全国からやって来る愛好者で賑わいを見せています。

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